以前、何かで読んだ話ですが、骨董店に新人が入ると、一年間ぐらい、毎日、本物の優れた骨董品ばかりを見せるそうです。
そして、ある日突然、とても精巧な贋作(ニセモノ)を見せて、そこで、その新人が「なにかおかしいと思うんですが…」とか言ったら合格、「いいものですね」と言ったら不合格で、眼力を養う訓練を続けるんだそうです。

宝石商にも同じような話がありまして、10年ほど前に私が商品の検品をしていた時、18金製の指輪に留められたシトリン・トパーズ(黄水晶、透明で黄金色の綺麗な宝石)が、なにかおかしいと感じました。
具体的にはどこもなんともないんですが、どうしても何か違和感がありました。
ほかのものは誰もおかしいと思わなかったんですが、私自身はどうしても納得がいかず、とうとう、その石を指輪の枠からはずして、ある鑑別機関の大阪支社に鑑別に出しました。
数日後、その鑑別機関から「大阪支社の鑑別機械ではわかりません。東京本社に良い機械があるので、東京へ送ります」と連絡がありました。
そして、それから1週間後に鑑別結果の連絡が入りました。
結果は合成ゴールデン・サファイア、合成コランダムでした。
(コランダムと言う宝石の中で赤い色をルビー、その他の色をサファイアと呼びます。)
考えようによっては、アメジストやシトリン・トパーズなどの水晶の硬度7に対して、サファイアは硬度が9と硬いですから、合成であると言うことを納得の上なら、これはこれで良い石かも知れません。
しかし、せっかく合成コランダムを造るのなら、もっと高価なルビーやサファイアを造ればいいのに、不思議ですね。

ともかく、誰でも経験があると思いますが、人には理屈抜きで直感が働く時と言うのがあるみたいです。
ちなみに、世界のどこかで合成宝石が造られると、世界のどこかの鑑別機関がその見破り方を発見して発表しますが、どうしても後手後手になります。
科学や医学に限らず、現場では直感に頼らざるを得ない場面はたくさんあります。


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左・合成ゴールデン・サファイア 右・シトリン・トパーズ


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